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ザ・戊辰研マガジン

2020年06月号 vol.32

『戊辰白河口戦争記』を読む(1)『戦争記』と私

2020年06月03日 08:28 by chu-emon
2020年06月03日 08:28 by chu-emon

 『戊辰白河口戦争記』は、福島県白河町の教育者・歴史研究者であった佐久間律堂が、戊辰戦争における白河口の戦いに関して地元民の証言等を収集・編纂して昭和16年(1941年)に刊行した書です。軍人等によって記述された多くの戊辰戦史とは異なり、生活の場を戦地とされた地元民の立場・視点からの戦争記録としてユニークな存在です。
 その後、戦史としては大山柏著『戊辰役戦史』(1968年)が出ていますが、なお白河地方の戦争を総括的に記録した書は稀という状況が続きます。一般的(観光的?)にも、戊辰戦争というと会津鶴ヶ城の戦いや箱館五稜郭の戦いがよく知られていましたが、世良参謀が白河小峰城に入ってから最後の戦闘まで110日にもわたり、戊辰戦争の帰趨を決したはずの白河の戦いについては、あまりにも知られないままでした。
 そこで、昭和63年(1988年)戊辰120周年を記念して、白河市の有志が『戊辰白河口戦争記 復刻』を刊行しました。これは井上幸雄・金子誠三両氏が訳注をつけ写真資料「目でみる戊辰白河口戦争の記録」などを付録としたものでした。しかし発行部数が限られたことから、白河の戦いを一般に周知するには十分とは言えませんでした。

 昭和16年原著の自序に「今秋戊辰戦争を距る七十四年にあたり」とあります。この年数は現在私たちが「戦後75年」と言うのと大変年回りが似通っています。当時にあっても戊辰戦争を体験し語り伝える人々は次々に世を去りつつあり、「今ここで出版しなければ」という状況は共通していたのではないでしょうか。
 古老あるいは旧家から「当時の実況を語るに足るものは片言隻句といえども之を収録」したという原著者・佐久間律堂の姿勢は、戦史・戦闘記録だけでは「戦争」を語り得ないという信念に基づいていると思います。これまで白河戦争の軍事的な分析は『戊辰役戦史』などによって深められており、いまとなっては『戊辰白河口戦争記』の真価は地元民・庶民の「片言隻句」の方にこそあるのでしょう。
 白河は戊辰戦争当時、たまたま領主のいない土地になっていました。そのため白河地方の人々は、東軍・西軍など権力争奪者に同調共感することなく、現地民である自分自身の視点で戦争を語り伝えることになったと思います。そのような白河の立ち位置は、現在に至るまで両軍の墓を分け隔てなく守り慰霊してきた市民の姿に引き継がれています。 

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 私の父は白河出身です。そして父の姉は郷土史や書道を好む人なので、『戊辰白河口戦争記 復刻』が刊行されたときに私にも1冊贈ってくれました。しかし、そのころの私は若い盛りですから郷土史本などには興味が無く、「なんだか古臭い活字の本だなあ」という印象だけでした。
 ところが50歳を過ぎ、体にガタが出始めるころになって、ご多分にもれず“歴史趣味”が芽を出します。「そういえば、うちの先祖について伯母さん何か言ってたな?」 むかし貰った『戦争記』に伯母の書き込み「内山忠之右衛門は先祖」とあるところを見つけ、よく読んでみたら「忠之右衛門は会津に殺された」?!
 たいへん驚きました。それまでの私の認識では「東北地方=佐幕派=会津」でしたので、白河あたりの庄屋が会津藩に殺されるというのは、意外過ぎてわけが分かりませんでした。「えーと?先祖が殺されて、自分がここに居るってのは?」というのも不思議な思いでした。
 どうやら私が単純にイメージしていた戊辰戦争とは違う内容が書かれているのかもしれないと思われ、伯母に貰ったまま放っておいた『戦争記』を「一通りちゃんと読んでみよう」という気になりました。ただしそれは聞き慣れない文言を辞書などで調べながらの、ずいぶんスローペースな読書となりました。むしろパズルを解いていくような興味といった方がいいかもしれません。また、読み始めてみると“もったいない気質”も生じてきて、こんなに手間をかけて読んでいるのだから自分が読んだ跡を誰かがたどれるようにしておくのが親切だろうと考えるようになりました。
 こうして、私の読み跡を「訳」として、また関連して調べた事柄を付録資料として、ひとまとめにしておこうという発想に至りました。インターネット上で公開したのが「戊辰白河口戦争記 学習ノート」というページです。私の『戦争記』解読は2013年に着手したもののなかなか形にはならず、戊辰150周年の2018年に未完成ながらようやく公開できる程度になりました。しかしその作業はまだ完了せず、現在も少しずつ続けております。

「戊辰白河口戦争記 学習ノート」
http://home.h05.itscom.net/tomi/rekisi/sirakawa/bosin/bosin-sirakawa.htm

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 これからこの「ザ・戊辰研マガジン」の紙面をお借りして、『戊辰白河口戦争記』の内容と「訳」の作業について、小出しに紹介させていただこうと思います。まったく素人の自己流の報告ですので、誤認や的外れもあるかと思います。皆様のご指摘やご批判もいただきながら進めていこうと思いますので、よろしくお願いいたします。

【参考1】
『戊辰白河口戦争記』をパソコンの文字データ化したものとしては、
白河市の冨山氏による電子化「戊辰白河口戦争記」
http://www5f.biglobe.ne.jp/~korokke/hajimeni.html
が以前からありました。「オリジナル版を忠実に再現」を旨として文字データ化されているとのことです。

【参考2】
戊辰150周年(平成30年2018年)にあたり、白河市・白河戊辰150周年記念事業実行委員会が記念誌『戊辰白河戦争』を発行しています。
この記念誌は新たな資料や豊富な写真・図版を集成したもので、白河戦争を知るための好書であると思います。
この中には『戊辰白河口戦争記 復刻』の訳解も掲載されています。(私の「訳」とは別なものです。)
販売について→  http://www.city.shirakawa.fukushima.jp/shirakawa/boshin150shirakawa/memorabilia.html

【記者 冨田悦哉】 

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