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『戊辰白河口戦争記』を読む(7)庄屋さんはエライ!

2023年07月06日 11:39 by chu-emon
2023年07月06日 11:39 by chu-emon

ザ・戊辰研マガジン2021年1月号以来の久々の執筆になります。
2年半も間が空いてしまいましたので、話題の連続性を欠き、ぐあいが悪いのですが、ご容赦ねがいます。

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 『戊辰白河口戦争記』には地元民の証言ばなしとして、庄屋の文書が多く引用されています。

 江戸時代の村々の庄屋は、よく日記の類の日々の記録文書を残しました。これは趣味教養的なものというよりは、そのような記録文書を付けておくこと自体が庄屋業務の根幹にかかわることだったからです。したがって、どこの村の庄屋の家にも、内容は一見何だか分からないが、筆文字でマメにこまごまと書き込んだ台帳のような文書が保存されていたはずなのですが、明治になって村役人から近代的な戸長制度に切り替わっていくにつれ、庄屋の保存文書の多くは旧時代の遺物として次第に処分されていったと思われます。

 しかし中には、物持ちが良いというか、記録文書の価値を認識している庄屋がいたと見えて、また郷土の研究者との貴重な出会いがあったことから、「庄屋○○家文書」などと整理されて自治体の史料として今日に残ってきたものがあります。現代となっては、そのような史料は、庶民の視点からの歴史の当事者記録として大変に希少重要なものになっています。

 今にして思えば、庄屋文書をすべからく保存しておけば、日本の幕末維新期の一次史料の厚みは“超級”だったはずなのですが、長らく幕末維新史は権力者や武士・志士の視点で語られるものという意識が支配的であったために、庄屋文書や庶民の証言は“詮無きもの”として時間とともに廃棄されていく傾向にありました。

 『戊辰白河口戦争記』著者の佐久間律堂は、序にもあるように、「本書收むる所、雑録と見るべきものあり、また炉辺物語に類する所も少くない。これ当時の実況を語るに足るものは片言隻句と雖も之を収録せるに因る。」と謙遜ぎみに述べていますが、庶民(百姓)の語るところがなければ戦争というものを記述したことにならないという信念から、敢えて収集・編纂したものでしょう。その本書が昭和16年(1941年)の発行です。

 しかしながらこのようなスタイルをとった刊行物はなかなか流行らず、類書が続くことはなかったようです。

 福島県中通り地方の、庄屋文書を基幹とした戊辰戦争記録書は、結局2008年の『隠された郡山の戊辰戦争 今泉久三郎日記より』(七海晧奘著・歴春ふくしま文庫)まで現れなかったのだと思います。

 それにしても、このような性質の出版は難しいのか、もう後は続かないかと思いかけていたところ、 福島県石川町立歴史民俗資料館がやってくれました。
2019年、『慶應四戊辰日記 “わが家に薩摩兵が来た!” 遭遇した庄屋の体験記』を発行してくれました。これは庄屋として浅川陣屋に詰めていた松浦孝右衛門の日記『慶應四戊辰日記』を現代語訳にしたものです。

 行政の発行物は簡易な冊子だろうと思っておりましたら、送られてきたのは上等な製本でカラー印刷まで入って、立派なものでした。内容も、見出し・脚注・索引が整備されて、大変な力作です。
 
福島県石川町立歴史民俗資料館『慶應四戊辰日記 “わが家に薩摩兵が来た!” 遭遇した庄屋の体験記』
 
 この松浦庄屋日記の記事から、慶応4年6月24日の新政府軍による棚倉攻略時の天気について合点がいきました。
 
 『戊辰役戦史』大山柏著には「六月二十四日は強雨であったが予定のごとく午前五時出発、・・・」とあります。そして諸書は「雨」やら「晴れ」やらまちまち・・
しかし松浦庄屋日記は毎日の天気を明記していて、慶応4年6月23日は「大嵐雨」、翌24日は「快晴」。
 
 なるほど、23日から24日未明までは「雨」だっただろうが、日中はすっかり「晴れ」だったのだろう。おかげさまでスッキリしました。庄屋さんはエライ!
 
 わが先祖である白河近郊小田倉村の庄屋・内山忠之右衛門(ちゅうえもん)が、もし殺害されずに生きながらえていたら、戊辰の庄屋文書がもう一つ現代に残っていたかもしれないと残念に思うのですが、いかがなものでしょうか・・
 
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『慶應四戊辰日記 “わが家に薩摩兵が来た!” 遭遇した庄屋の体験記』は、福島県石川町立歴史民俗資料館へ連絡して申し込むことで購入できます。
 
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「戊辰白河口戦争記 学習ノート」

http://home.h05.itscom.net/tomi/rekisi/sirakawa/bosin/bosin-sirakawa.htm

 『戊辰白河口戦争記』の訳や地名地図などを掲載しています。

【記者 冨田悦哉】

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