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2021年11月号 vol.49

【幕末維新折々の記・二十三】東京都立中央図書館

2021年10月12日 10:17 by tange
2021年10月12日 10:17 by tange


 私は、平成20年(2008)頃から、幕末維新の会津藩を生きた先祖たちの足跡を求めて旅を続けている。旅の行き先が決まると、自宅近くの都立中央図書館に通った。道府県史、市史、町史、村史が開架で並び、歴史学者や作家の著作も簡単に閲覧できる。私は、そこで訪ねる先の様々な情報を得て、旅の計画を練った。
 都立中央図書館は蔵書数210万冊を超えるという国内最大級の公立図書館で、昭和48年に都立日比谷図書館の蔵書を引き継ぎ開館した。同館は、港区南麻布・有栖川宮記念公園の一画に、白亜の美しい姿を見せている(設計、第一工房)。
 
 有栖川宮記念公園は幕末まで盛岡(南部)藩の下屋敷だった。そのため、近くに「南部坂」や「盛岡町」の名を残している。維新後、奥羽越列藩同盟に与した盛岡藩の屋敷は没収され、東征大総督・有栖川宮熾仁親王を当主とする宮家の御用地となる。つまりこの公園は、戊辰戦争における勝敗の帰趨をはっきりと今に伝える場所なのだ。昭和の初め、有栖川宮家を継承した高松宮より東京市に賜与され、公園として市民に開放された。

 公園の地形は東北部が高く西南方向へかなりの急傾斜で低くなり、西の端で麻布や広尾の街につながっている。その東端の高台に都立中央図書館が建てられた。
 一方、急な段差を利用して造られた大名庭園の骨格は、ほぼ昔のままに残された。西側の低い所に大きな池があり、そこに流れ込むように滝や渓流が造園されている。
 私は、人通りの絶えない広尾の商店街を抜け、かなりの交通量の外苑西通りを渡り、小さな門から公園に入る。その一瞬、喧騒から静寂に身を置くことになる。四季の移ろいに、開花、新緑、紅葉、落葉と様々に変化する樹林の間の小道を歩き、上へ上へと進み、森の中の広っぱを経て最上段の図書館に辿り着く。
 戊辰戦争の記憶を刻んだ有栖川宮記念公園のなかを図書館へ向かう時、「私の先祖探しの旅」は始まっていた。

 都立中央図書館は、当然のことであるが東京(江戸)に関する膨大な書籍、資料、史料を所蔵し、その一部を館内1階にかなりのスペースを割いて開架で閲覧できるようにしている。さらに、年に数回、4階にある展示室で企画展が開かれ、大変貴重な所蔵品を見ることもできる。なお、同館は都に在住するか否かに関係なく利用が可能である(休館日に注意)。
 所蔵品の中でも、江戸城を造営した大棟梁・甲良(こうら)家が作成した図面は圧巻である。このような完全で美しい図面が残されていたことに、建築設計を仕事とする私は大きな衝撃を受けた。それらのうち数点は国指定の重要文化財である。

 現代建築の傑作にも、必ず心を揺さぶられるような図面が存在する。ル・コルビジェ氏、丹下健三氏、菊竹清訓氏などの建築家が残した図面を見ると、それぞれの建築作品と同じように感動させられる。しかし我が国では、それらの保存管理に充分な注意がはらわれていない。大変に残念なことである。
 丹下健三氏が20世紀・現代建築をけん引した作品群の膨大な図面(原図)は現在、米国ハーバード大学で修復、保存、管理の作業が進められている。せめて日本人建築家の作品だけでも、その図面が国内で保存管理されるのが望ましいと思うのだが……。
 都立中央図書館の甲良家作成図面の保存に深い敬意を表するとともに、同館が近・現代建築家にも注目し、彼らの設計図面を引き取り保存管理することを期待したい。
 
 ともあれ私は、こらからも都立中央図書館へ通い、幕末維新を会津藩に生きた先祖たちの跡を追い続けるつもりだ。そして、甲良家の図面に再び対面できることも心待ちにしている。
(鈴木 晋)



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