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2019年08月号 vol.22

コーヒーブレイク「種々の小さな話」

2019年08月07日 12:27 by kohkawa3
2019年08月07日 12:27 by kohkawa3

その五十一 夏はネバネバ系だ

 都内のとある蕎麦屋にスタミナそばというメニューがあった。冷たいそばの上に納豆、めかぶ、オクラ、山芋、うずらの卵などがのって、冷たいつゆがかかっている。夏の暑い盛りのランチによく食べたが、そのネバネバで元気が出るような気がした。
 梅雨がようやく明けて、連日35度を超える猛暑が続くある日、スタミナそばを作ってみた。
 乾麺をゆで、水でよくもんでヌメリをとる。オクラはサッとゆでて水にとりあら熱をのぞいてきざむ。山芋はおろし金でおろす。納豆は辛子をのせてタレをかけがっと混ぜる。めかぶはパックに入った三陸産ダシ入り何とかをそのまま使う。そしてたっぷりのネギ。
 ソバの上にこれらの材料を彩りよく並べ、といっても色がじみでパッとしないが、真ん中に卵の黄身を置いて、めんつゆをかける。これをがっとかき混ぜて、ズルズルっと食べる。うまい。元気が出る。うなぎほどではないが。
 ネバネバ系といえば納豆の食べ方にうるさい人がいた。
 まずは何も入れずに右に100回、左に100回かき回す。添付のタレは邪道だと言って使わず、しょうゆを数滴たらす。さらに右に100回、左に100回かき回す。辛子やネギはどのタイミングで投入するのか忘れたが、聞いてるだけで疲れてしまい試したことはなかった。北大路魯山人の本に書いてあったというが本当だろうか。
 納豆は昔から好きだった。子供の頃は納豆にしょうゆをかけ、ねぎ、辛子をまぜて、ご飯と納豆を満遍なくまぜてからかっこむという一般的な食べ方だった。
 大学に入って間もない頃、学食の納豆定食をよく食べた。ご飯に納豆、卵、漬物、味噌汁がついた。100円くらいだったろうか。安かったのだ。
 当初、納豆と卵の組み合わせが不思議だった。納豆ご飯と卵かけご飯は別物で、いっしょに食べることはなかった。どっちを先に食べるか悩んだが、ご飯の半分を納豆ご飯にして食べて、残りの半分を玉子かけご飯にして食べていた。卵かけご飯を先に食べると卵が納豆の領域を侵食してしまうのだ。
 ある日、テーブルの向いに座って納豆定食を食べようとしている男がいた。見ていると、その男は納豆に醤油をかけてがっとかき混ぜ、そこに卵を割り入れ、さらにぐちゃぐちゃとかき混ぜ、ご飯にばっとかけると、ずるずるがつがつと食べていなくなってしまった。青天の霹靂、カラスに後頭部を蹴飛ばされたような思いだった。それ以来、卵納豆は朝食の定番になった。
 最近、納豆茶漬けというのを覚えた。テレビのコマーシャルのあれである。ばかにしていたが、食べてみるとうまいのである。これが夏の朝食の定番になりつつある。ほんとうはうな茶がいいんだけど。


その五十二 スマホ遭難

 最近スマホの調子が悪いなと思っていたら「SIMエラー」という症状が出て起動できなくなった。通信に必要なSIMカードをスマホ本体が読み取れなくなったのだ。
 仕事が終わって、さて帰ろうとしてスマホを覗くと「SIMエラー」が出ていた。「SIMって何だったっけ」と検索しようとしたらスマホが使えない。auショップで聞いてみようと思ったが、電話もできない。
 通勤途上で見かけたauショップに寄っていくしかない。いつも混んでいるのを知っている。土曜日の夕方である。時間がかかると覚悟した。
 今日は私の晩飯当番の日。晩飯を作っている時間がないだろうと、勤めに出ている同居人に連絡を取ろうとするが、電話もメールも使えない。「公衆電話か?」と思ったが電話番号を覚えていない。
 いかにスマホに浸りきった生活をしていたかを思い知らされた。
 auショップはたまたま空いていた。すぐにエラーの状況を調べてもらい「修理に出す」か、有料で「同一機種の新品に交換する」かの選択となった。修理に出すのも面倒なので、有料で新品と交換することにした。
 auショップからメーカーのサービスカウンターに連絡してもらい、私が直接メーカーの担当者に電話を通じて故障の状況を説明した。新品の在庫があるということで、明日の日曜日に自宅に届くという。時計をみると夜の7時である。対応の素早さに驚いた。さらに、1年の保証期間中なので無料だという。あと10日遅かったら有料になっていた。運が良かったといって喜んでいいのかどうか。
 仕事が休みの翌日の日曜日、午前中のうちに新品のスマホが宅配便で届いた。午後には故障した機種からSIMカードを移動して新品のスマホが使えるようになった。
 残念ながら故障したスマホは再起動を繰り返すばかりで、制御不能になってしまった。そのためデータの移動はできなかったが、アナログの血が残っている私は電話番号を紙に印刷して残しておいた。上出来である。
 こうして、スマホ遭難からは最短で救出された。被害も最小にくい止められたのかもしれない。便利さの陰には様々な陥穽がある。今回の遭難事故をスマホとの付き合い方を考える良いきっかけにしようと思ったのだった。
 (大川 和良)

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