福島県喜多方市内から曲がりくねった細い山道やトンネルを抜けると、里山の のどかな風景が広がる喜多方市山都町の宮古地区にたどり着きます。市街地から車で約40分。訪れたのは「幻のそば」とも呼ばれる宮古そばの起源やおいしさの秘密を探るためです。国道459号沿いに新そばの文字が記されたのぼり旗が掲げられ、駐車場には県外ナンバーの車が目立ちます。「昔は観光バスがたくさん来て、通りに渋滞ができるほどだった」そうです。
標高400メートル前後の宮古地区はコメ作りに適しておらず、以前はそばが常食でした。「越後裏街道」に当たるため、住民は行商など滞在する人たちに家庭で食べるよりも贅沢(ぜいたく)なそばを振る舞ったといいます。旧暦の10月10日に、現在も新そばを食べる風習が残るなど住民にとってなじみ深い食材です。関口さんは「母親の姿を見習って自然と打ち方を覚えていた」と振り返ります。宮古そばが広まるきっかけは昭和50年代に遡(さかのぼ)ります。県道工事などが盛んになると、工事関係者や県職員が宮古地区を訪れる機会が増えました。「また食べたい」と好評を得て、県庁の議員食堂や「知事のそば会」などで提供されるようになり、口コミで人気に火が付きました。地元の農家が輪番制で店を開いたものの、当初は完全予約制。宮古地区が市街地から遠く離れ、さらに店が予約制だったことなどから「幻のそば」と呼ばれるようになったようです。「わざわざ足を運んでもらったので、食べて帰ってほしい」と、十数年前からは予約をしていない客も受け入れるようになりました。 宮古そばは、つなぎを一切使わない十割そば。透明感のある白っぽさが見た目の特徴。日中と朝晩の寒暖の差がおいしいソバを作ります。飯豊山の万年雪から解け出す伏流水も欠かせません。関口さんから、つゆや薬味を付けず、本来の風味を楽しむ「水そば」を勧められました。「ズズッ、ズズズッ」。喉越しは抜群。口の中に心地よい香りが広がります。次につゆを少しだけ付けて食べると、箸が止まらなくなります。「そば打ちは熟練の技術が求められる」と関口さん。現在は長女の久美さん(49)が打っており、その腕前に感心させられました。
四年前、私は福島勤務の最後に、初めて宮古地区を訪れ、「幻の宮古そば」を食べました。一口食べて、それはそれは驚くほど美味しかったです。まさに、“幻のそば”の素晴らしさでした。天ぷらも、今まで聞いたこともない“ごまな”“はっと”などの葉っぱ類で、もちろん、初めて食べましたが、なかなか美味でした。
皆様も会津にお越しの際には、少し足を伸ばして『幻の蕎麦の里の宮古』に行ってみてくなんしょ。
【記者 鹿目 哲生】
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